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違いを越えて互いを支えられる仕組みを

 初回は、キャンサーペアレンツのスタッフとして活動されている、高橋智子さんからお話を伺いました。お子さんを持つがん患者さんを会員に持つ団体で、スタッフとして、がん患者ではない高橋さんがどのように活動されているのか密着しました。

​【プロフィール】 

 お名前)高橋 智子

 キャンサーペアレンツ スタッフ

私たちの企画を聞いてどう感じられましたか?

生の声を聴く事が大事だと常々感じているので、若い世代からこのような企画が聞けたのは良かったです。社会全体で関心を持つ為にも、こういった取組みがもっと広がればな、と思います。

 

―キャンサーペアレンツに入った契機を教えてください。

もともと西口さん(キャンサーペアレンツ起案者)の同僚でした。2016年にFacebookを通じて西口さんのがん告知/キャンサーペアレンツ立ち上げを知り、サイトリリース直後からオンライン業務などを担当するようになりました。

 

―活動を通して喜び/やりがいを感じるときはどんな時ですか?

会員の方から「普段なかなか思いを共有する場所がない」というお声をよく伺います。キャンサーペアレンツのサイトを通して、日々の生活の中で感じること(「しんどい」という一言やお子さんの成長の喜びなど)も共有でき、「不安が軽減された」「気持ちが楽になった」という言葉を伺った時にキャンサーペアレンツという場所があることの意味を実感しています。

また、年に数回のオフ会(参加者20名前後、3時間程)にて同じ気持ちを共有する事で会員の方々の笑顔と出会い、「また開催してくださいね」とお言葉をいただく度、「つながりってこんなに大きいんだ」と実感し、何よりの喜びを感じます。キャンサーペアレンツを通して「つながりの大切さ」や「つながりへの感謝」をより一層感じています。

 

―活動を通してなにか学んだことはありましたか?

 

キャンサーペアレンツ会員の皆さま、また、活動を通してご縁をいただく皆さまからいただくお言葉や対応力にいつもたくさんの気づきをいただいています。

「所詮罹患していないじゃない」と言われることも覚悟の上のスタートでしたが、ピアサポート研修やキャンサーペアレンツのイベントなどで「なにか少しでもできることはないか」というそのままの姿勢で飾らずにぶつかると、それを受け止めて「がんだから/がんじゃないから」は関係なく「人と人」として向き合って下さいました。「がん患者であるかないか」を意識した時点で「支える/支えられている」の関係が生じてしまうのではないかと思います。そうではなく、「お互い様」の関係であると気づくことが重要なのだと気づきました。私も困っているときには助けを求めることもありますし、そこで助けてもらえると心強い。

相手を想う気持ち、お互い様の気持ちを持って接すれば、違いを越えて一緒になって何かをつくっていける事を日々実感しています。

 

―がんに罹患されていなくてキャンサーペアレンツで活動している方はどれくらいですか?

 

法人設立時、理事は3名でしたが、昨年初めに新たな理事3名を迎え6人体制になりました(がん罹患者は3名+罹患者でない方3名)。昨年に1名、そして、今年の5月に西口さんが他界し、理事は現在4名となりました。今年の2月、西口さんに残された時間を鑑みてボランティアスタッフを募集し、新たに8名(うち1名ががん罹患者)の方にご参加頂いています。運営構成は少人数ですが、イベントでブースを出すなど人手が必要な場合にはキャンサーペアレンツ会員の皆さまから助けて頂いています。運営スタッフのみというよりも、会員の方々と一緒に活動している4年間と言えます。

 

―愛媛で活動されていると伺いましたが、首都圏と比べてなにか違いはありますか?

 

6年前より愛媛に住んでおり、感じるのはやはり「地域差」です。がんに対する先入観はまだまだどこに行ってもありますが、地方に行けば行くほどがんであることをオープンにすることが難しいという「意識の地域差」や、がんを身近に考える機会が少ないという「機会の地域差」などを感じます。首都圏には大きな病院や患者会も多く、がんについて知るきっかけがありますが、地方ではそういったきっかけがないので、身近に感じられる機会がなかなか持てないように思っています。当事者の方にお話を伺うと、「近所づきあい、職場関係、日常生活の様々な面での影響を考え、なかなか周囲に言えない」という声も。誰かが発信するのを待つのではなく、私自身がキャンサーペアレンツの活動について発信していくことでがんを身近に感じてもらえるきっかけ作りをできたらな、と思います。

 

―そんなに地域差があるとは知りませんでした。そういった点ではキャンサーペアレンツがオンラインであることがとても有意義に感じられます。

 

私自身も活動を通じて「地域によってこんなに違うんだ!」と驚きました。そうですね、キャンサーペアレンツがオンラインであるからこそどこに住んでいてもつながる事ができますし、そこから会員の方が地方で患者会を立ち上げたりするきっかけが生まれることもあります。ここでも「つながり」が広がっているな、と感じます。

 

―キャンサーペアレンツの活動から生まれた絵本『ママのバレッタ』(絵と文 たなかさとこ・出版 生活の医療社)を拝見しました。この絵本への思いを聞かせてください。

 

キャンサーペアレンツ会員の方々から成るえほんプロジェクト制作の第一弾作品です。えほんプロジェクトは「子どもとがんのことを話すきっかけとなる絵本があれば」「当事者である私たちだからこそ伝えられるメッセージがあるのでは」という会員の方の声がきっかけとなり誕生しました。『ママのバレッタ』は抗がん剤の副作用である「脱毛」をテーマに、治療に取り組むママと、それを見つめる娘の日々の暮らしを綴った、“闘病記”ではない“日常の物語”です。絵も文もすべてえほんプロジェクトメンバーによるものです。

昨年、ご縁に恵まれて原画展を東京や地方数か所で開催しました。原画展では、絵本では伝えきれなかった想いを伝えたく、原画1枚1枚に込められた作者の想いも展示させていただきました。がん罹患者以外にも見て頂ける機会が増え、皆さんが各々の生活に置き換えて「日々誰しも生きていくうえで悩みがあるけど、今を生きることが大事」「当たり前にとらわれなくていいんだ」というメッセージを感じ取って下さる方が多かったのでがんを超えて「生きること」へのメッセージを伝えるきっかけになったと感じています。絵本によって普段の活動以上に発信の場が広がったので、とても嬉しかったです。

 

―高橋さんにとってキャンサーペアレンツとはなんですか?

私にとっても会員の方々にとっても、西口さんの「つながりは、生きる力になる。」という言葉通りの場所だと思います。西口さんが貫いてきた「みんなでつくる」という気持ちの連鎖でここまで来れました。互いの想いに力をもらえるこの場所をこれからも広げていきたいし大事にしていきたいと思っています。治療状況などによってキャンサーペアレンツのサイトから少し距離を置きたいときも勿論あると思いますが、こういった場所があるということを知って頂けるだけでも心の支えとなり、ちょっとしたつながりを持てる場所の1つとしてこれからもありつづけられるよう活動を続けていきたいです。

 

―キャンサーペアレンツの事を本当に大切に思っていらっしゃるのを感じます。そこまで自分に大切に出来るものを見つけるために何かアドバイスはありますか?

学生の時は目の前のことで一杯いっぱいだったし社会人になっても仕事に追われていたけれど、西口さん、そしてキャンサーペアレンツと出会えた事で意識が変わりました。一つ一つの出会いを大切に、未来を考えつつ出来ることをして今を生きれば、自分が本当にやりかったことに気付けるのではないでしょうか。きっと皆さんも振り返って「やりたかった事ってこれだったんだ!今できている!」と思えるようになると思います。

 

―医療系学生/その他学生に向けたメッセージをお願いします。

 

生の声をたくさん聴いて欲しいです。それぞれの生活で忙しくて出向いて聴くのは難しいかもしれないけど、私自身も何も知らないところからスタートして意識がどんどん変わっていくのを実感しているので、実際の声を聴くことで得られるものはたくさんあると思います。患者さんを社会が支えるのではなく「同じ目線で一緒につくる」という姿勢でひとりひとりが自分にできることは何かを考えてお互いに一歩を踏み出すことが大事じゃないかな、と思っています

〈お話を伺って〉

 終始笑顔でキャンサーペアレンツについてお話されている姿がとても印象的でした。

 今回のテーマである「多様な人を診る」上で、大切なことを教えていただきました。立場や関係性ではなく、生の声を聴き、「お互い様」の気持ちをもって人と接することで、違いなどを超えた真の理解が得られるのではないかと感じています。


 貴重なお話をありがとうございました。

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