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今回は、医師として働いている吉田絵理子さんにお話を伺いました。

吉田さんの記事は2部構成となっています。

1部では実際の医療現場での様子について伺いました。

 

 

お名前)吉田絵理子さん

―まずご自身の経歴や活動に関して教えていただけますか。

 

 医師14年目で普段は病院の総合診療科で勤務をしつつ、社会人大学院生として東京慈恵会医科大学の臨床疫学研究部に所属しています。また、にじいろドクターズというグループに所属し、LGBTQsの人々に適切な医療的ケアが届けられるよう講演などの活動も行っています。大学院での研究テーマは「LGBTQsに関する医学教育」です。医学部に入ってからはほとんどカミングアウトしていませんでしたが、そのテーマを扱ううえで、自身のことを言わずにやるというのは私のやり方ではないと感じ、2018年頃に職場などでもカミングアウトをしました。医療従事者の方にLGBTQsの患者さんたちへの対応について知って欲しいと思い、LGBTQs当事者医師として医学部や病院などでの講演活動や執筆もしています。
 性自認に関しては、私自身は女性として生まれましたが、女性であることに上手く馴染んでいる感じられたことが無く、でも同時に男性になりたいかと言われると男性になりたいと思ったことは一度もなく、男性でも女性でもないXジェンダー(日本独特な概念)であると認識しています。恋愛や好きになる対象(性的指向)は男性・女性どっちを好きになることもあるのでバイセクシュアルと名乗っています。

 

 

―様々な団体からの取材を受けていらっしゃると思いますが、今回の私たちの企画についてどのように感じられましたか。


 リベラルアーツを学ぶことは非常に重要な事だと思います。医学部は忙しく、追われて勉強していると思うのですが、現場に出てみるとやっぱり医学の勉強だけじゃ足りません。倫理観であるとか患者さんの多様な背景(今回のテーマそのものですけど)を理解する力がないと適切な医療を提供出来ないというシーンはたくさんあるので、より幅広く若いうちに教養を身に付けておくということは非常に重要なことです。大変素晴らしい企画だと感じ、インタビューを楽しみにしていました。

 

 

―カミングアウトについて難しく感じる時はありますか。また、打ち明けた場合にどのような対応をして欲しいなどありますか。


 私自身は理学部を卒業してから学士編入で医学部に入りました。医学部に入る前には、ほとんどの友達にカミングアウトしていました。大学に入る前は、まだ確信がなくて悩んでいたのですが、それを含めて仲の良い数人の友達には話していました。大学(理学部)に入ってから、自分に対して自分がバイセクシュアルであることを隠しきれなくなり受け入れざるを得なくなりました。その時も周りの人には話をしていました。理学部は、学生一人一人の個性がかなり豊かで、カミングアウトしてもそんなに怖い目に合わないだろうという感覚がありました。でも医学部は、ほとんどの人が同じ職業に就く集団ということで、価値観が理学部に比べると多様でないと感じました。授業中に先生から同性愛者に対する差別的な発言を聞くこともあり、こういう中でカミングアウトをしたら大変なことになりそうだ、言わない方がいいだろうと感じていました。またもし受け入れられなかった時に、自分の仕事にも影響するかもしれないという恐怖が強く、医学部に入ってからはほとんどカミングアウトしなくなりました。
 また、私の場合は、友達にカミングアウトをするのに比べて、社会的にカミングアウトするのは、かなり怖かったです。日本ではLGBTQsに関する報道なども増え、著名人の方でカミング
アウトされている方もたくさんいらっしゃいますが、私自身は、公にカミングアウトするのにはかなりの勇気が必要でした。職業や社会生活が、言った後も同じように送れるのだろうかという不安がありました。実際にはカミングアウトしたことでこれまでに困ったことはなく、逆に職場でカミングアウトしたことで、病院のスタッフが「先生ニュースでこんな話をやってたよ」といったように、LGBTQsに関する話題について声をかけてくれて、普通に話せるようになり、とても嬉しいです。
 また、自分の職場でカミングアウトするのと同じくらい、二十歳くらいの時に親にカミングアウトした際にも勇気が要りました。友達ならば受け入れてもらえなかった時には傷つきながらもその人との関係を諦めることもできますが、家族との関係は続きます。それで相手が受け入れるのが厳しいとなればとても大変だなと、恐怖を感じながらカミングアウトをした記憶があります。
 打ち明けた時には、知ろうとしてもらえると嬉しいです。聞いた時にどの程度突っ込んでいいのかとか、どういうことを言ったら傷つけちゃうのかなとか、分からないこともあって、難しいところもあるだろうと想像します。私の場合は、相手が知らない・分からないというところからのスタートであっても、友人や大切な人とはセクシュアリティについてもコミュニケーションしていきたいと思っています。
 私の場合、結果的にはカミングアウトしても生活に変わりはありませんでした。しかし、そうはいかないということも多々あります。例えば、下宿している大学生の友人が親にカミングアウトしたらその日から仕送りが止まって学費も送ってくれなくなったということもありました。当たり前ですが、カミングアウトをするかは、一人一人が自分で決めることであり、強要されるべきことではありません。誰かのセクシュアリティについて知る機会があっても、それを勝手に人に伝えないというのは絶対に守って欲しいマナーです。

―医療機関を受診しづらいため健康格差につながると聞きますが、どのような環境を作ることが必要だと思われますか。


 トランスジェンダーの方で医療機関への受診をためらわれる方は少なくありません。例えば

ホルモン療法を受けていて見た目と戸籍上の性別にギャップがある場合があります。見た目はひげが生えていて明らかに男性なのに、名前が女性的な名前であった時に、受付で保険証を出して「え?あなたは本人ですか??」というやり取りが発生してしまうということが実際に起きています。そういったことがきっかけで病院に行くのが嫌になる方もいらっしゃいます。もしその時に受付で対応した人がトランスジェンダーに関する知識があり、対応の仕方を知っていれば、その人は傷つかずに済んだかもしれません。もちろん、保険証が間違っていたら大変なので確認することは大切です。ただ、あらかじめトランスジェンダーの方が受診することがあるという前提に立って、見た目と保険証の性別にギャップが生じうることを知っておく、問診票に通称名を書ける欄を作ったり、性別欄に自由記載欄を作ったりなどの工夫をすることができます。
 また男性とセックスする男性の方は、HIVなどの性感染症のリスクが高く、状況によって定期的な感染症のチェックが推奨されることがあります。しかし、そういった方が自身の健康について考えてクリニックを受診し、「感染症のチェックを定期的に受けたい」と申し出た際に、すんなりと対応できる医師が日本でどれくらいいるのでしょう。アメリカではこういったことを勉強する機会が与えられています。教育されていないから、どのように接したらいいかわからない、何の検査をしたらいいか分からないということにもなってしまうので、医学的な勉強も必要となります。
 また同性カップルに関しては、ICUなどで血縁の家族のみしか面会を許可していない病院もあり、法的な関係を結べない(結婚できない)同性カップルは面会が出来なくなってしまうことがあります。患者さんが希望した場合には、法的な関係がないとしても面会できるような環境を整えることが必要です。このように配慮できることはたくさんあるのですが、学ぶ機会が少ないのでまずは学ぶ機会を作ることが大切と考えています。

―そのような工夫は簡単に出来るものなのですか。またご自分の病院では取り入れていらっしゃいますか。


 実は、自分の病院で働きかけていくことが私にとっては「自分のことを分かって」と言っているようで一番ハードルが高く、まだ具体的には取り組めていません。もちろん、客観的には"私のこと"ではなく、あらゆるセクシャリティの方が受診しやすいように必要なことであると分かっていましたが、病院の全スタッフに対して当事者であるとカミングアウトしながら働きかけていくには、心の準備が必要でした。2020年度から本腰を入れて取り組んでいこうと思っていたら、新型コロナウィルスの影響で非常に忙しくなりスタートするのが難しくなってしまいました。ただ、研修医を対象とした勉強会では学ぶ機会を設けていますし、事務の人たちはLGBTQsに関する記事を読み合わせしていると聞いていて、少しずつ進んでいっています。

―アライであることを示すことで患者さん側も受診がしやすくなると思うのですが、医療者が出来ることとしてレインボーグッズを身に着けるなどの他にも何かありますか。

 ※アライとは、支援者という意味でLGBTQsを理解し支援する人達を表す言葉です。
 

 院内のスタッフみんなで足並みを揃えて対応できるような教育を受けて準備が整ったら、

ホームページなど患者さんが分かる形で掲載できるといいと思います。患者さんは自分のセクシュアリティに関わるような受診をしたい場合には安心して受診できるところを事前にリサーチすることもあり、明記しておくと受診しやすくなります。また言葉遣いはすぐに工夫できます。「彼氏いらっしゃいますか?」「ご結婚されていますか?」といった聞き方は相手のセクシュアリティを暗に推測してしまっていることになります。性別にとらわれない聞き方として「パートナーの方はいらっしゃいますか」「一緒に住まれている方はいますか?」と言いかえることができます。また性交渉に関しても、問診が必要な理由をしっかりと伝えたうえで、「皆さんに聞いているのですが、相手の方は男性ですか、女性ですか、それとも両方ですか」と聞くようにするとよいでしょう。実際そのように聞かれたほうが言いやすいですよね。他にも、産婦人科では「性交渉歴ありますか」と問診票で尋ねることがあります。この時女性としか性交渉したことがなかった場合には、どうすればいいのかわからなくなってしまうことがあります。スタッフに聞きにくいと感じる方もいるので、もし男性との性交渉について聞きたいのであれば一言「男性との性交渉歴ありますか」と付け加える工夫をしてもらえるとありがたいです。このように一つ一つの言葉遣いに気をつけることで患者さんも安心できます。


 

​来週も引き続き吉田さんのインタビューです。次回は新型コロナウイルスによる影響と医学教育についてお話していただきます。楽しみにお待ちください。

​現場の様子

吉田先生写真.png
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