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今回も、前回に引き続きAさんのインタビューです。

今回は手話通訳の今後とどのように私たちが接するのが良いのかを中心に伺いました。

 

 

―コロナの影響はどのような点でありますか?

 

 まず、コロナウイルスによって“受診抑制”といって病院に行くのをためらう方が多くいました。耳が聞こえない人はなかなか正しい情報を手にすることが難しいため、我々と比べると情報格差があり、誤解を招きやすいです。それによって病院にくるのが遅れてしまった患者さんもいました。もう一つは、マスク着用によってコミュニケーションを取りづらくなった点です。コロナウイルスによって、患者さんも我々も常にマスクをしなければならなくなりました。ただ、手話は手の動きだけでなく顔の表情も使うため、マスクをすると顔の表情が読み取りにくくなりコミュニケーションが難しくなりました。そこで現在では、通訳者と患者さんが話すとき、透明マスクをするか、(透明マスクも光ったり曇ったりするので)話をする方のみマスクを外していい、その時に十分な距離をとっていればなお良いと病院から言われておりますので、まず患者さんにそのことをお伝えし、患者さんが望まれた場合はマスクを外してコミュニケーションをとっています。

 

 

―外国語では自動翻訳などのテクノロジーにより言葉の壁が低くなっていますが、手話でもそのよう

なことが行われていますか。今後どのような形でテクノロジーが使用されていき、どの部分はテクノロジーでは足りないとお考えですか。
 
 今かなり研究が進んでいて、日本語を手入力すると手話にしてくれるCGやロボットもあるんですね。ただ手話が難しいのは表情:目や眉の動き、鼻、頬や口や肩の動き、首ふり、頷き、目線などです。細かい部分が文法の役割を果たしているので、研究はされているのですがやっぱりまだまだと感じます。私の知らない所でも研究が進んでいるとは思いますが、実際に見た範囲では手の動きと表情が合ってないとか、実際伝わるような翻訳になってはいない点もあるようです。そのため、対応手話は出来ると思うんですが、日本語から日本手話への翻訳となると難しいです。いずれ手話通訳が要らなくなるのではないかと何十年か前から言われていますが、やっぱりロボットとかCGとかAIに置き換えるのは難しいのが現状です。
 会議でも聞こえない人はワンテンポ遅れてしまうので発言権が奪われてしまったりしますが、文字起こしの機能がコロナの影響でさらに進んだように感じられます。例えば、音声を認識して文字情報におこす”UDtalk”というアプリがあります。オンラインで会議している時も字幕をすぐに表示できるようになります。これを使うと筆談する手間を省くことが出来るので、結構メジャーになってきています。また、電話が出来ないろう者のために”見える電話”というアプリがあります。聞こえない人がやり取りをする媒体として昔はファックス、今はメールがありますが、電話でしかアクセス出来ない病院の予約やキャンセルで役立っています。“見える電話” は電話での音声を文字情報に変換し、その文字情報を聞こえない人が見て、スマホで返答を打つとコンピューターの音声に変換されて電話が出来るアプリです。すべて文字情報なので、ないよりはましだと思いますし、予約の変更とかキャンセルくらいだったら手話じゃなくてもいけるという人も多いので発展してきていると思いますが、手話はまだ難しいと思います。pepper君などのロボットの手は動くけど表情はついていないのでロボットが手話していると一種の注目は集めると思うんですけど、実際の通訳、翻訳になった時に何かのお知らせとか一方的なものなら役立つけど、病院の診察や裁判・司法・警察の取り調べ、公的な場所での利用に置き換えられるのはまだだと思います。


 

―日常生活で海外の人と機械翻訳で話す際に心を通じ合わせるのは難しいと思います。もし技術的に手話が伝わるようになった時には心を通じ合わせる事が出来ると思いますか?
 
 技術が人間並みに伝わるようになったとしてもロボットと人間との違いが何かしらきっとあると思います。遠隔で手話通訳をする場合でも、タイムリーに通訳が出来ますが、その場にいない事による壁などをろう者は受け入れられない部分があります。通訳できる人が居なかったり、感染や被ばくなどで人が行けない時にそういう物で代替することはこれから進んでいくと思いますが、通訳の場でそれありきにしてしまうと凄く怖いと思います。ズレがでたりとか、おかしいなと思った時にすぐに確認が出来ないとか、なんとなく距離を感じることもあるかもしれない。技術が進歩していくときに“ロボットを置けば人権費も安く済むし良い面が多い”となって、それありきで進んでしまうと怖いので、やっぱり人を置いて欲しいという声は上げていこうとしています。今回のコロナでそのような技術が進んだ分、なんでもかんでも置き換わってしまうのでは、と思うとやはり怖いですね。

 

 

―大人になって新しいことを始めることは難しいと思いますが、不安などはありましたか?
 
 耳の聞こえないお母さんとの出会いが凄く衝撃的な出来事でした。出産して自身も日本語が分からない中で子育てをして病院を受診するお母さんはさぞかし不安だろうなと思いました。本当に衝撃が大きくて心動かされた所がありました。
 最初は無料で出来る地域の手話サークル(週1回、約2時間)に通いました。手話を聞こえない人から教えてもらいましょうという感じで通訳とはかけ離れたものでした。しかし私がやりたかった事は、看護師として医療知識を使って手話で説明をしたり、不安な気持ちを聞きだしたいという事だったので、埼玉にある国立障害者リハビリテーションセンター学院専門学校に2年間通いました。現在手話通訳の養成をしている学校はそこしかありません。手話通訳の学科の場では手話しか使ってはいけなかったので、2年間は留学しているような感じでした。そこでしっかり基盤を身につけられたので手話を忘れることはないと思います。大人になってから路線を変えたり、一回お休みしてというのは確かに周りにはびっくりされましたが、看護師として戻る場所はあると思っていたので路線変更への躊躇いは少なかったです。今の段階では手話通訳だけで生活をすることは出来ないので看護師として働きながら手話通訳を兼務しているというのが現状です。手話通訳士として定職についている人はほとんどいないと思います。ほとんどが半ば有償のボランティアだと思います。

 

 

―看護師の中でも手話通訳士の人は少ないと思いますが、どのように情報収集されたのですか?
 

 手話が勉強したいと思っても週1回の手話サークルでは身につかないんですね。一週間後には忘れてしまいます。ネットで調べたりとか、手話サークルにたまたまいた人からこういう専門学校があるということを聞いたりして半年くらい経って受験し合格しました。私の同期には看護師がもう一人いましたし、毎年各学年に看護師、言語聴覚士、社会福祉士、メディカルソーシャルワーカーなど結構医療関係の人もいたのでそんなに珍しいことではないですね。

 

 

―病院に限らず、日常生活でろうの方と接する際に知ってもらいたいこと、意識して欲しいことはありますか。
 
 聞こえないという障害は、パッと見て分からないですよね。その点で辛い思いをすることが多い障害だと思います。話しかけられても無視したような感じになってしまう事もあるので返事が返って来なかったら無視されたと思うのではなく、もしかしたら耳が聞こえない人なのかなという視点で見て欲しいです。文化が違うのでズケズケくるなどとどうしても誤解をされやすい点もあります。また手話って視覚言語なのですごい見てきます。聞こえる人はあまり目をじっと見て話さないですよね。なので凄いプライベートに入ってくるとか攻撃的に見られてると私たちは感じてしまいがちです。でもそれは聞こえない事を補うためとか必要があってしている事です。そのため自分とは違う価値観のため失礼な人という認識で対応してしまう所があると思うのですが、ろう者は凄く辛い思いをしているので考えて欲しいと思いますね。知らない事はしょうがないんですけど、しょうがないで済ませてはいけないです。私は自分が衝撃を受けた時に自分自身を責めました。出来なかったことはしょうがないけど知らなかった自分を情けなく思いました。知ってからは手話を勉強したいと思うようになりました。皆さんのように学生の時から気付けていたら良かったのにと思います。

 

 

―その他学生にメッセージがございましたら、お聞かせください。

 

 聴覚障害者にもさまざまなコミュニケーション方法があります。先天的に聞こえない人の第一言語は手話、手話に触れずに生きてこられた人は口話や残存聴力を使って日本語で生活するなど、耳鼻科の医師でも知らない方もいます。 医療的な分類だけでなく、言語的・文化的分類でも考えていただき、さまざまな対応方法があることを知ってほしいです。そして、その方が望まれる言語で診療にあたることができるようにしてほしいです。


<お話を伺って>
 今回Aさんにお話を伺って、恥ずかしながら知らないことが多く
感じました。同じ日本人だから考え方も同一であろうと考えるのではなく、一人一人に合わせた対応が重要であると思いました。見た目だけではろうの方であると分かりにくい事もあるので、多様な人がいるという事を念頭において色々な方と接することが必要だと思いました。
 Aさんは手話についてや様々な事をたくさん教えて下さり、より長くお話を伺いたいと感じました。手話をマスターする事は簡単ではないと思いますが、ろうの方の考え方をさらに学んでいくことから始めたいと思いました。
 この度は貴重なお時間を頂き、本当にありがとうございました。

​手話通訳の未来

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