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​今回は看護師として働かれている浅沼智也さんにお話を伺いました。

浅沼さんの記事は二部構成となっています。

一部ではLGBTの現状とコロナによる影響について伺いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プロフィール】

 お名前)浅沼智也

・看護師10年目。

・自身がトランスジェンダーであり、戸籍上は女性として生まれ、現在は男性として生活されています。

・2018年にトランスジェンダーの方々がよりよい生活を送れるようにするための団体『TRanS』を設立されました。その他書籍や映画など様々な活動を展開しています。

 

―様々な団体からの取材を受けていらっしゃると思いますが、今回の私たちの企画についてどのように感じましたか。

 教育業界は以前から文部科学省からの通達により性への配慮が行われていますが、医療業界はそれに対して遅れています。実際にトランスジェンダーの方が受診の際に不快な思いをし、それにより重篤化するまで病院に行こうとしない例も少なくありません。LGBTQが社会的にも認識される状況の中で、直面する問題は解決されていないのが現状です。

これから医療従事者になる学生の皆さんには、学生のうちから医療機関をアクセスする際に直面する当事者の問題を知ってもらって改善に向かって動いてほしいと思います。

 

 

―浅沼様の活動についてお聞かせください。

 

 2018年にトランスジェンダーの方々がより生きやすい生活を送れるようにするための団体『TRanS』を設立しました。他にも、自分のライフスタイルを知ってもらい、トランスジェンダーの方のロールモデルとなれればという思いから自叙伝を出版したり、戸籍変更の難しさを伝える映画の制作などにも携わったりしました。医療従事者に医療とLGBTQの直面する問題をもっと知ってもらいたいという思いから医療雑誌の執筆活動も行っています。

 

 

―コロナの状況はどうですか。また、コロナによる影響はありますか。

 

 今年の5月にコロナの影響について、当事者の方向けにコロナの影響に関するアンケートを取りました。このアンケートは元々別の医療アクセスに関する問題点を知ろうと始めたアンケートでした。しかしその中で、周囲にコロナで困っているトランスジェンダーの当事者が多く、仕事を辞めさせられそう、解雇の最優先にトランスジェンダーの方が入っている、感染したらどうしたらいいか、などの声を聞きました。多くの相談があったのでそれをデータ化しようということで5月に緊急的に入れて取りました。

 一番困っていることは、感染者の情報公開範囲です。情報公開範囲には基礎疾患も含まれることがあり、これが情報として出ることで個人の特定につながる可能性があります。そのためプライバシーの保護を国にどこまでしてもらうかも問題となってきます。

<アンケートに寄せられた声>

①受診・治療のストップ(一番多い)の原因

・病院の一時閉鎖およびコロナによる自粛

・ホルモン剤の輸入制限(特に金銭的に個人輸入に頼っておられる方々)

②アウティングの原因

・感染者の情報公開範囲→基礎疾患などの公開により個人特定に繋がりかねない

・コロナに感染した場合→ホルモン治療を受けるためには医師に対するカミングアウトが避けられない。感染経路としてクリニックの事を話せば、アウティングとなる場合もある。

 

 

―コロナの影響で家族と過ごす時間も増えると思います。医療機関にかかれないだけでなく、自粛のせいで家族との関わりに問題が生じたりなどは周りでもありますか。

 あります。特に子供のLGBTQs当事者たちは家族にカミングアウトをしていないことも多いです

<コロナ下での子供の影響>

・居場所を求めて来ていた当事者の交流会に参加できない

・親が無理解であっても、行き場所がなく一緒に過ごさなければいけない

ex.)埼玉から東京など越県して当事者の交流会にきていた子も、自粛ムードで家から出られなくなってしまった。

・カミングアウトをしていない親とずっといなければいない苦痛

・自分を偽ってそこに居るという罪悪感

・親に話す時間はこれだけ沢山あるものの、話した時にもう居場所が無くなってしまう恐怖や葛藤

・親が無理解であっても行き場所がなく一緒に家に居続けなければならない苦痛

 

 

―日常生活で直面する問題は、具体的にどんなことがありますか。

 

 同性愛者の方の場合とトランスジェンダーの方で異なってきています。また、現在のライフステージによっても問題は異なっています。特に小学生で、同性愛者の人やトランスジェンダーの人たちは生きづらさを強く感じる場面が多いです。

<日常生活における問題点>

①同性愛者の方の場合

・同性の相手は、法的な家族ではないと除外されてしまう

ex.)福利厚生の手当、介護休暇の取得、医療現場でのキーパーソンとしての認定などは同性婚の相手は認められない。たとえパートナーシップ政策を取り入れていても、医療機関が知らなければ突き返されてしまうことも

②トランスジェンダーの方の場合

・性自認と社会的な生活が密接していることが多く、性自認に基づいた生活をしようと思うとカミングアウトする必要がある。カミングアウトにはアウティングのリスクもついてくる

ex.)

・就職活動にて:戸籍上の性別に丸をつけることで困惑されたり、性別を理由に落とされたりすることがある

・医療現場にて:入院部屋の問題(性自認の部屋に入りたくてもその希望が認められないなど)、検査結果/リストバンドに書かれた性別によるアウティングのリスク。

・アウティングにより精神的苦痛を感じ精神科にかかった場合も、うつ病の部分しか見てもらえず根本的解決が難しいことがある。

③小学生の場合

・ジェンダー別に分けられた授業で自分がどちらかに当てはまらなければいけないと考えてしまうこと

・親の無理解や大人の協力の無さにより、性自認に基づいた生活を出来ないこと

・同級生からいじめに遭う可能性

・これらにより更に深く傷ついてしまうことも

 

 

―医療の面では、具体的にどのような配慮が現在必要だと思いますか。

 

 性にはグラデーションがあり必ずしもLGBTQsに分けるのがいいわけではありません。実際に、既婚で子供と奥さんもいる方で性自認が女性という方もいたりします。自分の想定を超えた状況もあるので、必ず広い視野で色んな人がいるという前提で接すること、そして憶測ではなく本人の口からでた発言を基にアセスメントをしていくというのがすごく大事です。一見トランスに見えたとしてもその人はトランスではないかもしれないですし、それは本人が言わないと分からないことです。また何に困っているのかは個人によって違うことなので、どのような事に配慮してもらいたいかも違います。そこは本人と話合って個別性を持って対応してもらうことが大事です。

 医療従事者の中でもやはり残念ながら差別的な発言をする方が少なくありません。無意識に発している場合もありますし、「オネェが来た」とか「あいつはホモだ」と笑っている人もいるんです。興味本位で外来受診の時に見に来る人もいます。ですが、当事者自体が医療従事者の中にいる可能性もあります。それを見てしまった当事者は、この職場でカミングアウトは一生できないと思います。密かに傷ついている当事者もいるので、そういうのを見聞きした時に「それは差別的な発言だからやめた方がいいですよ」と一声注意することもすごく必要になります。

 

 

 ―リストバンドからのアウティングなどを防ぐために、医療現場では何に気をつけたら良いですか。具体的に方針があったりしますか。

 方針は実はありません。結構各病院の対応に任せられているので、病院側も困っていることではあります。また、システム上や経営側の視点とご本人様の視点とをすり合わせる妥協点を見つける必要があります。例えば、入院部屋は、ただ個室に入れればいいとはなりません。個室料金が発生し、その差額は病院が持つのか、それとも当事者に払ってもらうのか。払えない場合には、どうしても大部屋に入ってもらうしかない状態になります。(トランスジェンダー当事者としてではなくて医療従事者側の視点として話させて頂くのですが、)大部屋に入る際には、ある程度見た目が大事になってきます。他の4人部屋で一緒に生活をされる患者さんが混乱をしないようにするためです。戸籍上女性でも、見た目が男性化している人だと男性部屋に比較的入りやすい。見た目が性自認に基づいていないような時には、すごく医療従事者は困ります。結局、性自認じゃない戸籍上の性別でお部屋に入れられることによって、じゃあもう退院しますという当事者も実際にはいます。これはずっと課題だと思っています。本当に一つ一つのケースによって違い、病院でどこまでカバー出来るのかという問題でもあるので、各病院での対応になります。

 

 

―また、浅沼様自身が医療を受けた際に改善してほしいと思った点などはございますか。当事者が安心安全にアクセスできるというのは具体的にどういうことですか。

 

 医療機関で嫌な思いをする人は本当に多く、医療機関は安心安全ではない、具合の悪い時にアクセスできないと思う当事者は多いのです。今年の5月に行ったアンケートの中で「どこの科で嫌な思いをするか」と訊いた時に、ホルモンを打っている婦人科とか泌尿器科かなと思っていたんですが、内科が多かったです。その理由はやはり、医療従事者の偏見や無理解によるトラウマ経験です。保険証提示時に見た目と戸籍上の性別が違うことによって何度も本人確認をされること、診察時にフルネームで名前を呼ばれて、男性化をしているのに女性特有の名前を大声で呼ばれてしまって周りから奇異な目でみられてしまうなどといったことが起こります。そして不快な思いをしてしまうために、医療アクセスにどんどん遠のいてしまう現状があります。

 フレンドリーな医療機関、医療従事者がどんどん増えることで、当事者たちのそういったスティグマは変わると思います。まず医療従事者側が、多様な性について勉強し、バイアスを除くうことが必要です。そして、やはり医療従事者から変わって発信していくこと。否定ではなくて肯定をするような発信をしていくこと、それはすごく大事だと思います。

 最終的な結論としては、医療機関に不要な性別欄は撤廃しましょうということです。検査データの中に本当に性別欄がいりますかとか、問診票の中に性別欄を丸する必要がありますかとかジェンダー別に病衣を分ける必要があるのかとか色々病院では疑問点は多いです。それを聞いてもやはり方針だからと言われてしまいます。実際に、問診表で性別欄を撤廃している所もありますが、まだまだ少数です。

 

 

―病院によって方針や対応がまちまちということですが、LGBT当事者にとってフレンドリーな病院や評判の悪い病院の情報は共有されているのですか。

 

 ジェンダークリニック、性別違和を診断する医療機関をリストアップしているサイトもあります。ただし、フレンドリーだと期待してもその人には合わない可能性はあります。一般的な内科や別の科では、フレンドリーさを掲げている医療機関はありますが、リストアップしているのは見たことがないです。

 

 

―浅沼様は看護師として活躍されていますが、医療従事者の立場から、普段の診察・診断の場面で配慮していることは何かありますか。

 

 私の病院は、当事者も多いですが、配慮はされていない現状があります。先生方でもわからないことが多いので、その都度わからない点を伝えて改善をするしかないのです。

 例えば、外来で同性同名の方がいるのでフルネームで呼ぼうということになっています。でも、それが嫌な人もいるし、それ自体が個人情報の漏洩になってしまうので、本人が希望するのであれば、上の名前だけ呼ぶということはしています。また、整形外科にトランスジェンダーの方が運ばれてきたことがあります。戸籍自体は男性で名前自体は改名していないけれど、見た目は女性化していました。女性のお部屋に入っていただき、書類も法的に正式なものでなければ希望通りの表記にするなどをしました。入浴に関しては、性別ごとに日付が違う病院が多くありますが、私の病院ではそれ自体を撤廃して部屋ごとに割り振り、「男性はこの日、女性はこの日」というのがわかってしまうことで生じる苦痛はなくなったと思います。

次回も引き続き浅沼さんのインタビューです。次回は浅沼さんの描く社会についてお話しして頂きました。お楽しみ下さい。

LGBTの現状とコロナの影響

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