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第二部も第一部に引き続き浅沼さんのインタビューです。

今回は浅沼さんの描く社会像についてお伺いしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―病院実習をする中で、まだ患者さんがLGBTQ当事者であると気づいたことがありません。日常的に、病院でいらっしゃるのに気が付いていないだけのでしょうか。

 

 数自体は少なく、日本人口の5~8%と言われています。たとえば外来患者さんが多くて100人いたとすれば、その中には必ずいるはずですよね。ただ、少しの風邪をひいただけで、同性愛者の方が同性愛者であることをカミングアウトする人はほとんどいません。直面する問題がないし不必要なカミングアウトはする意味がないからです。しかし、トランスジェンダーの場合は、どうしてもカミングアウトが必要になります。それでも、戸籍を変更して性自認に基づいて生活していればパッと見てわからない可能性もあります。見た目でわからないだけで、接している可能性は十分にあります。

具合が悪くなってしまって既に辛い状況で、医療従事者の言葉は胸に刺さるものです。性的マイノリティ当事者だけではなく、外国籍の方や身体的に不自由な方など他のマイノリティの方にもそれは言えることですが、気を付けて言葉を選んで発していかなければ、知らないうちに発した心無い言葉で、医療機関に来て更に具合を悪くさせてしまったり精神的に追い込んでしまったりすることもあるかもしれない、とは思います。

 

 

―LGBTであることを知った人にはどのように対応してもらいたいですか。

 

 カミングアウトには結構勇気がいるので「伝えてくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えて欲しいなと思います。アウティングにならないためにまず注意して頂きたいのは、どこまで誰に話しているのかというのを必ず確認することです。その人は信頼して自分だけに話しているのかもしれないし(大体はこの傾向にある)、もっとオープンに色んな人に話しているのかもしれないです。もし自分自身のなかで受け止められない時には、直接本人に「本当にありがたいけどほかの誰々さんにお話してもいいですか」と聞いて、事前に本人に相談してもらうことが必要だと思います。

 

 

―最近、LGBTQにまつわる教育も増えていると思いますが、どういう教育や知識の広め方が理想的だと思われますか。

 

 まずは、カリキュラムに入れてもらうことですね。臨床に出てからの研修はなかなか難しいので。研修自体は医療機関でもしていますが、多様な性についてやLGBTQについての研修の優先順位が低いと言われがちです。なので学生の間に学んでもらうことが大事になります、まずは知ってもらうこと。ただ、医療従事者は、そこで直面する問題を解決する側なので、その先のことも教えてもらうといいです。特に疾患的なこと、治療内容についても学んでもらえればと思います。LGBTQの人がいるということだけじゃなくて、では具体的にGID (Gender Identity Disorder;性同一性障害。今は性別違和という。) の治療はどのようなものがあって作用・副作用はどのようなものなのか、知ってほしいです。たとえば整形で骨を折って入院しなければいけないとき、先生にも知識がないので、どれだけのホルモンを投与していいのか、副作用には何があるのか、肝機能が上がってるときにホルモン剤が影響していることがありますが、その可能性すら分からない先生も残念ながらいるんです。どの科にもLGBTQ当事者はいらっしゃいますし、入院して自分が対応しなければいけない可能性もあるので、医療従事者は学生のうちに、現場での困りごとを含めて学んでほしいと思いますね。あと、もっと多くの色んな当事者に会ってもらって、実際に困ってることを聞かせてもらうのも手だと思います。最近は当事者に関してや現行の法制度やその問題などに関する書籍も沢山出ているので、興味を持って見てもらうことが大事だと思います。そして各自で考えていくこと、それが大事ですよね。医療現場って、1つの事例に対して色んなメニューがある中で、これがいいんじゃないかと選んで進んでいくものなので、正解が分からない場合や後から分かることもあると思います。色々な話をして色々な経験をして、皆が安心できるような場になればいいなと思いますね。

 ただ一定数、理解できない人たちはいるんです。僕、医療機関、特に看護学校メインで研修に行っているんですが、「トランスジェンダーは理解できるけどゲイは気持ち悪くて理解できません」という学生も普通にいるんです。ただ、それを学生にうちに発見できたことはいいけれど、実際に医療機関でそれを表してしまうと知らないうちに偏見や差別をすることになってしまうので、まずはなぜ自分自身がそのように偏見を持つのか、自分の当たり前が本当に当たり前なのか、ジェンダーバイアス的なものがかかってないのか、そこらへんも本当は見つめ直してほしいな、と思います。

 患者さんの話ばかりしましたが、医療従事者の中にも当事者がいます。カミングアウトしてないだけかもしれません。なので、日常的な会話からも、実は隣に当事者の方がいるかもしれないということも想定して、プライベートな話を聞くときにも「彼女彼氏はいるの?」ではなく「パートナーいるの?」と聞くとか、そこらへんも気を付けていかなければいけないですよね。

 

 

―GIDについて、ご自身の苦労などがありましたら教えてください。

 

 注射を定期的に打たなければいけないですが、病院は平日に開いていることが多いので、仕事を休んでいかなければいけません。自分自身は看護師なので、不定休で、夜勤明けの平日に行くこともできるんですが、仕事を休んでいかなければいけない当事者も多く、なかなか会社側が理解してくれない現状があります。治療自体も、身体を切るというのは簡単ではないです。それを社会人になって仕事を休んで手術をするとき、その辛さをなかなか理解してもらえません。今の治療の一部は保険適応になっていますが、それも診断を受けてホルモン療法を受けていない人のみが対象です。ということは、GIDの診断を受けて、乳腺摘出の手術は保険適用になるんですが、その後にホルモン治療をしてしまうと混合治療になるのでお金を請求されてしまいます。

 手術をした後の苦労は、やはり当事者にしかわからない部分があると思います。私自身、子宮卵巣をタイでとりました。タイではそういった性別適応手術の手術件数も多く、技術もあってお金がかからないのでタイへ行く当事者も多いです。違う国に手術に行って、手術合併症などが起きた時にどような対応されるのか不安を抱えた状態で、仕事を休んで行かなければならないこともあります。陰茎形成や造膣の手術の例では、尿道閉塞してしまった当事者の方が、緊急性を要するのに日本の医療では見られないと言われてしまう事もありす。先生が事前に知っていれば防げることも多いですね。

 それと、もう少し身近なところでホルモン療法をできるところが増えてほしいなと思いますね。特に最近のコロナ禍になってからなんですが、地方だと越県しなければならないとことも多くてかなりお金がかかってしまうこともあるようです。

 若い時に生殖機能を永続的に欠く状態になった場合、いつまでホルモン療法を続けるかという問題もあります。骨粗鬆症や更年期障害のリスクもあるので、そういった不安もあると思います。

 

 

―日本での性別違和に関する治療をしてくれる医療機関はまだ少ないですか。

 

 少ないですね。じつは、日本GID学会や日本精神神経医学会が軸になって発信し、作成している診療ガイドラインの基準の中で認定医制度というものがあり、ある程度の単位をとれば認定医になれる、認定医制度も存在します。この認定医も受けてくれる先生が少なく、認定医自体が少ないという現状があります。そして医療機関でも保険適応となっている性別適合手術ですが、保険医療機関として登録されているのは全国で7つほどしかありません。しかも跡を継ぐ先生がおらず、診療をやめてしまう大学病院があったりもします。

 このようにGIDの知識をもっている医師数が少ない一方で当事者は多いので、手術をしたいと思っていても、予約が1、2年先となってしまうこともあり、現状のようなコロナ禍では、その期間が延びたりすると、当事者にとっては耐え難い苦痛になりますよね。どんどん性別適合手術をできる医療機関が増えてほしいなという反面、知識がないのにビジネスでやってしまう先生もいる(新宿歌舞伎町のクリニックでの手術ミスなど)ので、議論の余地があります。

 ただ2022年からWHOのICD‐11でGIDはなくなります。脱精神病理化をしてしまう際、現在問題となっているのは、どの科の先生が見ることになるのかということ。精神疾患ではなくなってしまうので、今までのように精神科で見れなくなってしまいます。DSM5の方では性別違和が精神疾患に残っているので、それに準じる形で診療にあたるのか検討されています。

 一方、厚労省の「みんなで考えようメンタルヘルス」にいろんな精神疾患の説明があり、そこにGIDもはいっていました。その説明が、「女なのに男になりたい、男として生きている人たちをGIDという」みたいな表記がありまして、それをツイッターの方にあげたらちょっとバズってしまったんですよ笑。 当事者から賛同の声が多く寄せられました。そこには理由が二つあって、一つは身体的な性別で扱われることが嫌だったりとか自覚をすることが嫌だったりするのにもかかわらず、国が「女なのに」や「男として」などの表記をしてしまうのは問題ではないかということ。もう一つは2022年にGIDが脱精神病理化をして、ICDから削除されるのに、この「みんなで考えようメンタルヘルス」の項目にGIDを入れていくべきなのかということ。

 当事者以外の人はこういった理由がわからない現状があります。わからないことが悪いのではなく、この件をきっかけに考えてもらうことができたらと思っています。

 

 

―どのような社会になればいいと思いますか?

 

 今LGBTQは社会的に言葉は浸透していて、誰もが認識している言葉になっているとは思います。しかし、本当に直面する問題が解決しているかというとそうではありません。同性婚は認められていない不平等な法律のままですし、特例法も人権を侵害しているとしてハードルが高いものとなってしまっています。世界からもずっと言われているのに、変わっていない現状があります。特にトランスジェンダーの方は性別を決めることが特に密接に関係しているのに、まだ書類の性別記入欄があり、強制的なカミングアウトをしなくてはならない状況がまだまだあります。一人一人が意識を変えていくことで、みんなの意識が変わり、行動が変われば、社会は優しくなっていくと思います。そうなっていって欲しいですね。

 社会的に何に問題があるのかということは、コロナ禍でも見えてきましたけれども、個々によって違う部分もあります。とくにマイノリティの人たちの問題は深刻化しやすい現状がありますので、まずは知ってもらうこと、そして行動してもらうことを望みます。また自分自身のスティグマや固定観念があるのかないのかはしっかり考えてもらう必要があります。男女二元論、同性愛批判など生活をしていて感じることは多々あります。本当に多様な性とはどのようなものなのか、そういった部分を崩して考えていかないと社会は変わらないのではないかと思います。

 自分自身の性自認や、好きな人とともに生活していくことは、やはり人権として守られなくてはなりません。だれもが人権を阻害されずに、自分の好きな人と暮らしていって、法制度に守られる、そしてトランスジェンダーの場合は性別関係なく自身の性自認に基づいた生活を胸を張ってできるようになる、そんな社会になってほしいと思います。生死に関わることもありますので、医療従事者として知っておかなくてはならないことだと思います。たくさん本もあるので読んでみてください。

 

 

 

 

 

<お話を伺って>

 浅沼さんはLGBTQについて熱く語って下さいました。

 今回お話を伺って現在の社会情勢や医療制度がLGBTの方にとって過ごしにくい状況であることを

改めて感じました。特に医療機関の受診の際に負担が大きくなることは医学生として向き合わなければいけないと思いました。私たち個人が出来ることは小さいですが、まずは認識することから始めることが大切であると感じました。

 この度は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

​性に隔たりの無い社会へ

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